「となり街戦争」
三崎 亜記 著 「となり街戦争」
この作品で「第17回すばる新人賞」を受賞
日常生活上で起きる戦争。公共機関の一般業務の一環としての戦争。
主人公が住む町とそのとなり町とが繰り広げる戦争のお話。
とても面白い視点で書かれている物語。
現実の社会も見方を変えれば間接的に人を殺してるとも限らない。
考え始めると迷宮に陥る内容だけにそれを迷宮に陥ってド坪にはまる事はせず あっさりと書き上げている。
現代を象徴するような小説。
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- 「わからない、ぼくにはあいかわらずよくわからない。人が一人死んだ。僕のために。戦争の意味がまったくわからない。ぼくがスパイ映画気取りで逃げ回っていた間に…。でもそのことへの罪悪感がまったくわいてこない。あまりにもリアルじゃないから。まるで遠い砂漠の国で起こっている戦争で、死者何百人ってニュースで聞いているみたいだ。まるで他人事だ。どうしてだろう。香西さんにとってこの戦争はリアルなの?痛みはあるの?」(p169)
日常とはそんな現実とリアルを感じれない差異なのかもしれない。
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- 考えてみれば、日常というものは、そんなものではなかろうか。僕たちは、自覚のないままに、まわりまわって誰かの血の上に安住し、誰かの死の上に地球を築いているのだ。ただそれを、自覚しているのかどうか、それが自分の眼の前で起こっているかどうか。それだけの違いなのではなかろうか。僕はもう、自分が関わったことが戦争であろうが、なかろうが、そんなことはどうでもよくなった。たとえどんなに眼を見開いても、見えないもの。それは「なかったこと」なのだ。それは現実逃避とも、責任転嫁とも違う。僕を中心とした僕の世界の中においては、戦争は始まってもいなければ、終わってもいない。(p193)
自分を中心としたときの世界の見え方。自覚したところでやはりその差異は埋められるはずもない。
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- 僕は…そして多くの戦死者達にも、祈るべきコトバを持たない。形だけの祈りで、自分の中のなにものかを満足させたくはなかった。僕は、ここで祈りを持たなかったということを、自分に刻み付けて生きるだけなのだ。これからもずっと。それが僕にとっての「鎮魂」なのだと思う。(p194)
深読みするととても難しい事を題材にしている小説ながら、袋小路に入らないどこかカラッとした物語が流れている。
良くも悪くも現代的な切り口の小説。
- 作者: 三崎亜記
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2005/01/05
- メディア: 単行本
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