「dividual」

modmasa2007-05-25

dividual
個人という意味の単語「individual」はin-dividual=分けることのできない、という意味。人にはたくさんの側面「dividual」が存在し、どれかひとつ自分の好きな「dividual」を見つけることは、”生きること”に繋がるのではないか?

異なる「自分」を肯定 平野啓一郎氏「分人主義」
 作家の平野啓一郎氏が、2030年代のアメリカを舞台にしたSF長編『ドーン』(講談社)で「分人主義」というあり方を提言している。ネット社会で人間が多面的な顔を持つ状況を踏まえ、監視社会が加速した未来における人間関係を示唆する着眼だ。
 「分人(dividual)」とは、状況や相手により異なる「自分」になるという概念。「キャラの使い分け」とは違う。「その場限りの仮面」の裏に「本当の自分」があるわけではないからだ。「多重人格」とも異なり、相手と協同して「自分」が成り立つ。
 平野氏は「閉ざされた共同体では一人の個人で通用したが、都市化やネット社会化で人はバラバラな顔を持ち、場に応じて自己を調整する能力が求められる。人格が変わることはネガティブに思われてきたが、肯定した方が楽になる」と語る。
 物語は、人類初の火星着陸を果たした宇宙ロケットの中で女性飛行士が懐妊してしまった秘事が中核となる。女性飛行士が共和党の副大統領候補の娘だったために、スキャンダルに発展する。選挙では単純な二元論を唱える共和党に対し、多様化を旗印とする民主党が「分人主義」を訴え、争点となっている。
 「相手の男性の過ちは、宇宙船の中で一つの個しか生きられないストレスが原因。『分人』をめぐる議論を書こうと思った」
 人間はもとより、状況に応じて演劇的に振る舞うということはあった。だが、平野氏は「『分人』という言葉を与えることで変わる。的確な言葉がないから不安に感じるんです」という。確かに、セクハラ、パワハラ、トラウマなどは言葉が与えられることで概念が市民権を得てきた。
 平野氏は中世を古めかしい文体でつづる『日蝕(にっしょく)』でデビュー、ショパンの交友を点描法で描く『葬送』、ネット社会の闇を突く『決壊』など、作品ごとに時代設定や文体を一変させている。作家としても「分人」主義を貫いているのが興味深い。(2009年8月19日asahi.com

ドーン (100周年書き下ろし)